全身麻酔は怖くない ー 麻酔科医は科学的知識を駆使するアーティストだ

手術で全身麻酔をしたことのある人が知り合いに何人かいる。雲の上にいるようでうっとりとしたという人、意識を失って次の瞬間には普通の状態で病室にいたという人、すごく気持ち悪かったのでこんな経験はもう二度と嫌という人、体験はひとそれぞれのようだ。

患者にとって麻酔の経験は印象的である。一生の間に全身麻酔をする経験は通常それほど多くないからだ。しかし、患者が手術を終えて麻酔が覚めてから気分良くいられるかどうかということは麻酔科医にとってさほど重要ではないかもしれない。患者の気分よりも優先させるべき重要な要素があるからだ。

世界で初めての記録に残されている全身麻酔手術は日本の華岡青洲によるものだそうだ。有吉佐和子の「華岡青洲の妻」でも知られている。以後数え切れないほどの臨床例を重ねて全身麻酔手術は洗練されてきたのだろう。

三重大学臨床麻酔薬講座のウェブサイトに全身麻酔概略がわかりやすく記されている。

全身麻酔概観|三重大学臨床麻酔学講座

このウェブサイトによると、全身麻酔は意識消失、筋弛緩、鎮痛の三要素を別々の薬で行うそうだ。また、麻酔導入と麻酔維持のプロセスで麻酔は行われるらしい。

麻酔は目的によっていくつかの種類の薬を組み合わせて、また必要に応じて手術中継続して何度か行うものらしい。また、手術の前には麻酔医が問診票を書かせて場合によってはかなり込み入った質問をするようだ。患者の体質に合わせてさまざまな観点で麻酔薬を選ぶのだろう。

日本麻酔科学会のサイトには「麻酔は、手術が安全に行えるように、手術中の患者さんの全身状態を維持することを最大の目的とした医療行為です。」と書かれている。そのためにさまざまな制約条件をクリアしつつ最適な麻酔薬を選定する。その制約条件が手術の内容であったり患者の体質であったりする。麻酔には外科医の繊細な手技を手助けする役割がある。薬には副作用もあるし、それぞれの薬の相性もあるだろう。また、手術中になんらかの異常が発生したときは状況に合わせて対処する必要がある。身体への負担を少なくし手術後に体力や精神機能が早期に回復できることも考慮するだろう。

麻酔薬の処方は、長年の臨床による学問的な裏付けによって目の前の生きた患者への手術の安全に対する最適解を導くということだろう。そして、それが麻酔科医の専門性によるところなのだと思う。