映画レビュー「ファーストラヴ」 ー 個人の生き方と心理的安全性

しばらくぶりに映画を見に行った。近所の映画館になかなか見ようと思う作品がこなかった。コロナ禍で夜20時には上映が終わっている状況でもある。

この作品はストーリー展開や話の必然性が甘いところがあり、そこが残念である。読んでいないのでわからないが原作はまた違うのかもしれない。この映画では役者の演技に頼るところが大きかったように思うし、逆にいうと役者を動かすように作られたのかもしれない。

北川景子は正統派美女でありむやみに感情の振れ幅を表現する役者ではないように思う。彼女の演技を見ながらふと高校のときの国語教師の言葉を思い出した。

その高校教師の本職は詩人であったが、私が詩の朗読に当たったときにこう言った。「詩を読むときは感情を込めて読んではいけない。詩人の表現を聞いている人に伝えるために読み手の感情表現が邪魔になることがあるからである。淡々と正確に読むように心がけよ。例えば、行が変わるところや句読点のある詩では必ずそこで間をあけるようにせよ。」

一般には表情を大げさにころころ変える役者がうまいようにいわれるが、そうとは限らない。役者の演技は詩の朗読とは違うが、役者なりの表現方法を持つ役者がいい役者だろう。ちなみに北川景子主演の作品で私が好きなのは「花のあと」である。そのときも共演陣が良く特に夫役の甲本雅裕がうまかったと記憶している。「ファーストラヴ」は「花のあと」とはまるで違う話だが夫婦の関係性においては似ているところがある。

ふだん持っている常識や周りの状況というのがすべてではない。ひとは自分の状況だけに合わせてものを考えがちだが、置かれた立場が変われば、行動も変わってくる。

ずっと異常な状況に置かれると、まず、それが異常だと思わずにその状況に適応しようとしてしまう。状況が受け入れがたくなると、無理やり打破しようとしてしまうかもしれない。状況が異常ならば物語になるが、世の中では普通に行われているようなことが自分にとっては受け入れがたいこともある。そういったときにはどのように行動するか。

周りが敵ばかりと思うと心を閉ざしてしまいがちだが、自分を大切にしながら周りに率直に表現することの重要性について考えさせられた。

また、このことは「心理的安全性」にもつながる考え方だと思った。「心理的安全性」とは、ハーバード・ビジネススクールで組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された概念である。Googleでも研究されており心理的安全性を高めると、チームのパフォーマンスと創造性が向上する」ことが発見されている。

https://rework.withgoogle.com/jp/guides/understanding-team-effectiveness/steps/foster-psychological-safety/

これは組織における概念だが、個人の生き方についても当てはまるところが多いのではないだろうか。

この映画では弁護士や臨床心理士、写真家がそれぞれ専門家としての仕事に真摯に取り組んでいるように描かれている。そこはよかった。