スパイス・ハーブ入門 ー 料理初心者のあなたもスパイスの魔術師に

料理は私の一番好きな家事である。うちにはスパイス・ハーブが20種類ほどあり、そのうち半分くらいはしょっちゅう使っている。ところで、あまりスパイスを使ったことがないという人もいるだろう。いろいろあるのでどれを使ったらいいかわからないし勇気がないから試していない、という人は多いのではないだろうか。ここではスパイスの使い方や試し方を語ってみたい。

初級編)カット野菜の野菜炒めにミックススパイスを使ってみる

まず簡単な野菜炒めを作ろう。やり方は、炒め物用のカット野菜を買ってきてささっと炒めるだけ。同じ野菜を炒めたものでも、スパイスを入れてみると目先が変わるので、違うメニューのようにみえる。毎日料理するとメニューが偏ってしまいがちだが、スパイスを変えただけでメニューの使い回しができる。

まずはミックススパイスを使ってみよう。いろいろなミックススパイスが売られているが、うちでよく使うのは、エルブ・ド・プロバンスガラムマサラ、五香粉(ウーシャンフェン)である。カット野菜の野菜炒めなのに、エルブ・ド・プロバンスと塩とオリーブオイルで味付けすればアーラ不思議、いつもの野菜炒めがフランス料理になる。ガラムマサラと塩とオリーブオイル(またはギー)で炒めればインド料理の味になる。五香粉と塩(または 醤油)とごま油で炒めると中国料理店に行った気分になる。どのスパイスもかけすぎないことがコツ。まず少なめにちょっとだけ振ってみて味見しながら好みの量を探ろう。

これで、フランス風、インド風、中国風それぞれの野菜炒めを作ることができる。

中級編)ミックススパイスを代表的な料理に使ってみる

ところでエルブ・ド・プロバンスはもともと何の料理に使われることが多いだろうか。例えばラタトゥイユを作ってみよう。ラタトゥイユは野菜炒め煮だから、多少時間はかかるが作るのは簡単だ。塩こしょうだけで作るよりも味に奥行きがでる。(煮込むときにはローリエを入れてもいい。)ちなみにエルブ・ド・プロバンスというのは、フランス南部プロバンス地方のハーブという意味である。

ガラムマサラはもともとカレーの仕上げに使う人が多いだろう。ところで、インドにはカレーという名の料理はないらしい。あるのはスパイスを使った炒め物や炒め煮などである。例えば、ジャガイモとキャベツをオリーブオイル(またはギー)で炒めてみよう。そして塩とガラムマサラで味付けすれば「ジャガイモとキャベツのサブジ」という料理ができる。

五香粉も幅広い料理で使われている。好みが分かれるスパイスではあるが、炒め物一般に使うと一気に中華風になる。私がよく作るのは、台湾の魯肉飯(ルーローハン)、豚の甘辛炒め煮を青菜やゆで卵と一緒にご飯の上にのせたもの、だ。豚バラ肉のかたまりを買ってきてカットし、玉ねぎと醤油、砂糖、酢、酒で甘辛く煮て五香粉で香りをつける。日持ちするので多めにつくっておける。

これで代表的なミックススパイスの使い方をマスターできた。

上級編)ミックススパイスの中の個別のスパイスを使ってみる

次なる課題は、それぞれのミックススパイスの中身のスパイスを別々に使うことだ。ミックススパイスを使うことができれば、中身のスパイスにも親近感をもてる。それぞれのスパイスは別々の風味を持っているので特徴にあわせて使い分けしよう。また、ミックススパイスの中で気に入ったスパイスを別に多めに入れるとか、ミックススパイスの他に別のスパイスを入れてみるとか、自分なりにアレンジをしてみるのも楽しい。

手元にあるエルブ・ド・プロバンスのメーカーはマスコットである。原材料名は、ローレル、ローズマリー、セイボリー、オレガノ、バジル、マジョラム、フェンネル、パセリ、タイムと書いてある。(サイモン&ガーファンクルの「スカボロー・フェア」が聴こえてきそうだ。これにはセージが入っていないがメーカーによっては入っているものもある。)例えばローズマリーを使って鶏胸肉のチキンソテーを作ってみよう。焼く前に塩、こしょう(あれば挽いた黒こしょう)しておく。終始弱火で最初は皮を下にして15分程度じっくり焼き、皮がパリパリになったらひっくり返して10分程度焼く。だいたい焼けたかなくらいの頃にローズマリーを投入する。最後にレモン汁をふり入れて肉をカットすれば完成だ。ローズマリーはフレッシュの方がよいけれど、なければドライのものでもよい。

手元のガラムマサラはS&Bのものである。原材料名はブラックペッパー、コリアンダー、赤唐辛子、カルダモン、ホワイトペッパー、クミン、クローブ、シナモンである。この中でクミンを使ってみよう。クミンには種子のクミンシードとそれをすりつぶして粉状にしたクミンパウダーがある。クミンシードは油を熱した後に入れて香りを立たせてから使うことが多い。パウダーはいつでも投入してよい。どちらも炒め物や煮物、スープなどさまざまな料理に使える。使い勝手がよいスパイスだ。例えばキャベツや人参などの野菜を炒めて塩こしょうとクミンで味付けすると野菜のサブジができる。このときはシードでもパウダーでもOKだ。ちょっとエスニックな感じが漂う一品になる。ガラムマサラを使った味とクミンだけの味とでどちらが好みか比べてみてもよい。ちなみにクミンはトルコ料理にもよく使うスパイスである。

うちにある五香粉はS&Bのもので、原材料はスターアニス、シナモン、花椒クローブ、ちんぴである。スターアニス八角のことであり中国料理にはよく使われる。八角はそのまま使うと風味が強烈なこともあり、五香粉のように粉状にして他のスパイスとミックスしたほうが使いやすいように思う。花椒は麻婆豆腐の仕上げに使うとしびれるような風味と香りが立って本格的になる。粉末のものを使うか粒状のものを包丁でたたいたりミルで挽いたりして使うとよい。市販の麻婆豆腐の素を使って作ってもいいが、豆板醤、甜麺醤豆豉を使って作っても思いのほか手間なく簡単にできる。

ここまで読んでくれたあなたは、すぐにスパイスの魔術師になれる。ここで書かなかった別のスパイスが店頭にあればそこから同様に試してみてもよい。また、一度初めてのスパイスを使ってみると他のものも使ってみたいと思うだろう。まずは、気になるスパイスを入手して早速キッチンで試してみよう!