おにぎりの話

学生の頃友人から「得意料理は何?」と聞かれたことがある。すこし考えてから「おにぎりかな」と答えた。今でも同じ答えをするかもしれない。

たいてい米一合あたり四つのおにぎりを作る。数種類作るときでも一種類は決まっていて、海苔と梅干しのおにぎりである。大ぶりの梅干しの種を取り除き、おにぎり一つにつき半分使う。梅干しは梅、塩、紫蘇のみで作られた塩分15%以上のものを使っている。以前は自分で漬けたこともあるが、東京都内のベランダでは梅を干す気分になれない。だから、今は買ったものを使っている。これまでに食べた中で一番美味しかったのは夫の祖母のお手製の梅干しだ。庭に生えている濃い紫蘇の色に染まっていた。今ではもう手に入らない。

海苔はたいてい近所のスーパーに売っている標準的なものを使っている。海苔の品質はおおよそ値段に比例すると思う。いただきもので美味しい海苔が入手できることもあるし、たまにささやかな贅沢をすることもある。おにぎりに貼ってしっとりさせた状態で食べる。必ずしも全面には貼り付けないがたっぷりと使う。

おにぎりの形は平べったい丸形である。リクエストがあったり気が向いたりすれば俵型でも三角でも作るけれど、通常はこの形で作る。ご飯が炊けて蒸らしたらしゃもじでほぐして少しだけ冷ます。通常は家族と自分の分しか作らないから素手で握る。ご飯はやけどしない程度に熱いと感じるくらいがちょうどいい。ご飯がうまく炊けているかどうかは見た目と感触でわかる。感触は米の銘柄によっても違う。手を濡らして手のひらにささっと塩を振ってなじませる。塩はいろいろ試していて、今は白い岩塩を使っている。左の手のひらにご飯をのせて右手を使ってころころと手前に数回転がして軽くふんわりと、かつ、しっかりと握る。この力加減がコツといえばコツだろうか。

具については梅干し以外でも保守的である。塩昆布、鮭、たらこ、明太子など。たらこや明太子はすぐに食べるならそのまま、持ち歩くなら焼いてから入れる。

海苔のおにぎり以外なら、ふりかけを混ぜ込んだり、表面に味噌をつけたりする。海苔の代わりに大葉を使ったりもする。炊き込みご飯をおにぎりにすることもあるが、具によっては崩れてしまうこともあるので気をつける。

おにぎりは素朴で飽きない。できたてでも冷めてからでも美味しい。