廃業してしまった極上の温泉の思い出 星山温泉(神奈川)、ホテル静養園(千葉)

去年はほとんど温泉に行けなかった。コロナ前はかなりいろいろなところに行っていた。ここではコロナ前に廃業してしまったふたつの極上の温泉の話をする。

私も夫も泉質重視派である。逆に泉質が良かったら設備はどうでもよい。新しくてピカピカの綺麗な設備でないとダメという人は、これらの温泉には入る前に踵を返してしまうかもしれない。特に星山温泉は絶対無理な人も多いだろう。

星山温泉は神奈川県葉山町にあった。葉山といえば高級別荘地のイメージであるが、ここはまさしく秘湯で、山奥の廃墟にあるバラック小屋である。脱衣所と狭いステンレスの湯船がある浴室で構成された小屋は貸し切りである。気のいいご主人が廃材の薪を焚いてお湯を沸かしてくれた。冬の時期は焚き火をしながらのんびりご主人や他の客と世間話をしたりしたものだ。見た目こそ古くて怪しくごちゃごちゃしているが浴室内は清潔である。泉質は抜群で浸かったときの感動は忘れられない。透明でヌルヌルした独特の感触の沸かし湯を楽しめた。夫の大型バイクで何度か行ったのだが、山道が複雑で分岐が数カ所ある。ウェブの道案内はほとんど役に立たず、夫曰く絶対こっちじゃないと思う方ばかり選択するとたどり着けるとのことだった。

星山温泉に比べるとホテル静養園は古いだけで普通のホテルである。千葉県富津市にあったホテル静養園には東京からアクアラインを経由して何度も通った。いつか泊まってみたいとは思いつつ毎回お湯だけお世話になった。外観はさびれているが、レトロでいい感じのロビーと湯殿である。ここの琥珀の湯は黒に近い深い焦げ茶色で、浸かるとじんわり身体にいいと感じるホッとするお湯だった。芯から温まり湯冷めしにくい。女湯、男湯それぞれに露天風呂と内湯があった。女湯でいろいろな人と話をする機会もあった。近所の方が、ここに来ると体調がよくなるので通っているとおっしゃっていた。自噴の掛け流しと循環湯を併用し加水消毒なしとのことである。ホテルのご主人が受付にでてくることもあり、話し好きで温泉を愛しているのがよく伝わってきた。

星山温泉もホテル静養園も本当に素晴らしい温泉だった。もうあのお湯に入れないのは実に残念である。