手作り石けんのこと

20年近く前から家で使う石けんは手作りしている。もう100回以上は作っただろう。毎日料理を作って食べるのと同様に、石けんも日常的に作って消費している。身体全体を自作の石けんで快適に洗うようになった。最初は、前田京子さんの「お風呂の愉しみ」という本を手に取ったのがきっかけだ。この本には石けんやスキンケアの手作りの方法や楽しみ方が書いてある。

その後、同じ前田さんの「オリーブ石けん、マルセイユ石けんを作る」という本を買った。この本一冊に石けんを作ることのほとんどは網羅されている。

石けんを作る工程では、油と水と水酸化ナトリウムで石けんを作り、香りをつけ、色や形を整える。コールドプロセスの鹸化法で作るため、化学反応が完了するのに1ヶ月以上要する。

手作り石けんを趣味にする人には石けんの見た目をキレイにする人が多いように思う。最近は宝石のような石けんが流行っているようだ。自分と家族で消費するため、私は見た目にはあまりこだわらないが、使い心地にはこだわっている。型はときどきシリコン型を使うが、多くは牛乳パックを利用している。ひとつぶんが小さいシリコン型は見た目はいいが、数個分まとめて作れる牛乳パックで作った方が若干使用感がいいように思う。

無香料で作ることもあるが、香りを付けるときは控えめの量のエッセンシャルオイルを使う。柑橘系の果皮の精油には光毒性の作用があるかもしれないから保守的に考えて使わないようにしている。よく使うのはハッカ油、ローズマリーゼラニウム、ジュニパーベリー、ティーツリー、フランキンセンス、クラリセージなどだろうか。

一番凝っているのは、材料の油である。家庭料理と同じように、手元にある油や作る季節を見込んで、適当なレシピを作る。水酸化ナトリウムは正確に測らなければならないが、多少の測定誤差程度は許容範囲だろう。油と水酸化ナトリウムの量は同モル数よりも油を少し多めにしている。水酸化ナトリウムはそれほど安定した物質ではない。しばらく空気中に放置すると潮解してしまう。

義務教育の理科の時間に水酸化ナトリウムと塩酸から塩を作る実験をしたことがあると思う。そのときに、水酸化ナトリウムも塩酸も取り扱いに注意を要すると教わっていると思う。水酸化ナトリウムの欠片を一瞬触っただけなら大量の水で洗い流せば問題ないがずっと触っていると皮膚が溶けるので危ないとかそういった実践的なことも教わった記憶がある。だから、石けんはキッチンのシンクで作る。誤って触ったら即座に大量の水で流せるように。ちなみに機動力が落ちるから手袋は使わない。

石けんは理屈がわからなくても化学式が書けなくても作れる。しかし、化学式や鹸化の過程を理解して作った方が楽しさが増えるだろう。

油とそれを構成する脂肪酸によって、どのような性質の石けんになるかが違う。例えばオリーブオイル100%の石けんはしっとりするが泡立ちは控えめで柔らかくなる。オリーブオイル100%石けんは独特のよさがあるからたまに作るが、たいていは泡立ちや固さの点で日常的に扱いやすくするために、パーム油、ココナッツ油、ひまし油などを加えて作ることが多い。

季節や天候によっても、作る過程や仕上がりに若干の違いがある。もう何度も季節を重ねて作り込んできたから、ほぼ予想通りのものが出来上がる。材料をちゃんと測りさえすればあとはなんとかなるもので、実際に今まで実用に耐えないものができた経験はない。石けん作りは過程も楽しめるし、出来上がった石けんを使うのもいいものだ。使い終わると消えてなくなってしまうところも気楽でよい。自分にはいい趣味だと思っている。