映画レビュー「Dr.コトー診療所」

Dr.コトー診療所のテレビドラマは、最近Gyao!で一括視聴した。離島の診療所で設備が十分に整っていないなか、患者の状況に合わせて難しい手術をこなしていくコトー先生に共感した。仕事も状況も違うが、データサイエンティストの私も顧客のシステム環境とニーズに合わせて仕事をしており、与えられた環境でベストを尽くすことがプロフェッショナルだと思っている。

さて、そういうわけで、映画も観に行った。結論を先にいうと、映画全体としてはとても残念な出来だった。良かったところは島の風景と役者の演技、良くなかったところは脚本とストーリーである。

素晴らしい海の風景から始まる映画はそれだけで期待が高まる。また、全体的にいい役者を揃えているだけあってドラマが締まって見える。ドラマからしばらく経っているので老けて見える俳優もほとんど見た目が変わっていない俳優もいる。この映画だけ出演の俳優も違和感がなく良かった。この辺りにはリアリティがあるといえよう。

脚本とストーリーはいただけない。例えば、原剛洋は島の神童という設定だが、映画以前から学歴に無理があった。脚本家は東京のお受験しか知らないので視野が狭くなってはいないか。医師になりたい地方の優等生は地元の中学、高校を経て国立医学部に進学するのが通例である。今は中高一貫校かもしれない。沖縄や九州にもそれぞれ県立の名門高校があり、医学部進学実績がある。離島の庶民の子供が医者になるために東京の私立中学に経済的な無理を押して進学するのはかなり設定に無理がある。そうはいってもこれまでは一話一話進行するテレビドラマだから視聴者側もあまり突っ込まずにきてしまったのだろう。映画では剛洋のその後が描かれているが、現実的でないところがより鮮明になってしまっている。また、剛洋のシーンは長めにとられているが、俳優が元子役であり現在はプロの俳優ではなく一時的に復帰しただけなので、コストを抑えて起用できるためだろうと思うのは穿ち過ぎだろうか。

また、沖縄や九州では台風などの自然災害に対して一般にしっかりとした対策がなされている。この辺りも東京しか知らない脚本家の浅さを露呈している。ドラマ版からしばらく経ったので、映画版では新しい技術が使われている描写がある。しかし、それは時代が変わっているという描写のためだけに個別に使われただけである。実際には新しい技術は生活全体に関わっており、自然災害対策の一環にもなっている。脚本家にはその辺りの知見も乏しい。

脚本の問題点は、フジテレビの問題点であるともいえよう。フジテレビはメディアとしての業績は悪化の一途をたどっている。コスト面から一時期優位であったためか韓国寄りのメディアといわれたこともある。この映画でも唐突にハングル文字が出てくるところがある。また逆に韓国寄りな面を堂々とストーリーに展開しなかったところは、いろいろと忖度した結果なのだろうか。

主題歌はドラマ同様、中島みゆき銀の龍の背に乗って」であり、エンドロールで流れる。歌そのものはあまり好みではないのだが、映画での歌い方はドラマよりもストレートで良かったと思う。

資金や設備が十分に与えられていなくともその状況で最善を尽くす、というところがこの作品への期待だった。映画ではいろいろと行き当たりばったりな描写も多く、個人的には残念だった。Dr.コトー診療所としては最後の作品だという報道があった。そのため総集編ということで人気のある題材を盛り込みたかったのかも知れないが、もう少し絞って練ってから作って欲しかったところである。